今回事例を教えていただいた方

辻野 和美 さん
- 健康運動指導士、ひめトレインストラクター
- 株式会社ホリスティックヘルス研究会代表取締役
- 奈良女子大学非常勤講師
- 日本女性骨盤底医学会会員
- 奈良女子大学スポーツ科学コース修了(修士)
自社サロン、クリニック、自治体、企業などでのクライアントに合わせた骨盤底筋トレーニングの実践指導と、骨盤底筋力を高めるための身体の使い方を学術研究。エビデンスに基づく最新のメソッドを取り入れた、オリジナルワークを追究。
株式会社 ホリスティックヘルス研究会のHP:http://holistichealth-association.jp
研究内容・結果の紹介
私は、第19回日本女性骨盤底医学会にて「呼吸に伴う腹筋群の収縮が骨盤底筋の随意運動に及ぼす影響」という題材で発表しました。腹横筋および腹直筋を選択的に収縮させる2種類の呼吸様式をしたとき、骨盤底筋の意識的な収縮を伴うか、伴わないかによる、骨盤底筋筋活動量を比較検討しました。
測定方法は以下の通りです。
【方法】
一般中高年女性14名(年齢:49.6±2.6歳)を対象とし、簡易で安全な2種類の呼吸課題を骨盤底筋の意識的収縮ありの場合、なしの場合(計4種類)で実施しました。
- "ハァー"の発声とともに下部腹横筋を中心に緩やかに収縮させる
- "ハァー"の発声とともに下部腹横筋を中心に緩やかに収縮させる+骨盤底筋の意識的な収縮
- "フー"の発声とともに上部腹直筋を勢い良く引き込み収縮させる
- "フー"の発声とともに上部腹直筋を勢い良く引き込み収縮させる+骨盤底筋の意識的な収縮

MyoTrac3バイオフィードバック機器を用いて、骨盤底筋筋活動(%MVC)は膣内筋電図、腹横筋および腹直筋筋活動量(%MVC)は表面筋電図によって測定しました。
【結果】
骨盤底筋の意識的な収縮は、呼吸による腹横筋および腹直筋収縮時の骨盤底筋収縮の筋活動量をそれぞれ高めることがわかりました。
腹横筋のみならず、腹直筋を積極的に動員させる簡易な呼吸法に骨盤底筋の意識的な収縮を用いることで、
より効果的に骨盤底筋筋活動を高める可能性があることが示唆されました。
基本の骨盤底筋トレーニング(ケーゲル体操)では、腹直筋を動員したエクササイズは安全性の面から推奨されません。しかし、骨盤底筋の意識的収縮を伴わせることで腹直筋も動員され、より強度の高い呼吸を用いた効果的なトレーニングの可能性が示されたのです。
ここで注意したいことは、骨盤底筋の収縮はクライアントにより得意不得意があるので、体感がとても大切であるということです。
ここからは、私が一般の方を対象に現場で実践する中で、骨盤底筋をどのようにクライアントに体感してもらえるかをお伝えします。
クライアントの骨盤底筋の感覚を引き出しやすくするためのコツ

骨盤底筋を意識させるためには、頭の理解と骨盤底筋の感覚を一致させることが大切です。一般の方に指導するとき、まず初めに注意したいのは、「骨盤底筋を意識してください」という専門的な言葉は使わないことです。
まだ骨盤底筋の存在を知らない方(言葉としても、身体感覚としても)にいきなり「骨盤底筋を締める」と言う表現を使うと、多くの場合、体が緊張してしまい、体感を引き出すのが難しくなります。そこで、
- おしっこを我慢する感じ
- お尻の穴を締める感じ
- 膣を締める感じ
- おならを我慢する感じ
などの声がけの中からひとつでも骨盤底筋の動きをクライアント自らの身体感覚として意識できるものがあればそれでよしとするように指導しています。
運動習慣のない方やシニア層の方、骨盤底筋の動きを感じることが難しいと感じる方には、ひめトレに乗ってもらうことによる皮膚刺激や圧迫刺激からの感覚入力で、骨盤底筋の意識を高めるサポートをします。
一般の方がインナーユニットの出力をより高めるために意識するべきポイント
呼吸と連動して骨盤底筋は収縮しています。そのため、呼吸の中でインナーユニットの動きを意識することで出力を上げることができると考えています。
運動習慣がない方の中には腹式呼吸を知らない方、できない方もいるので、まずは腹部が吸気時に膨らみ、呼気時に凹むこと確認し、自然呼吸の程度の強さから進めてもらいます。
既に腹式呼吸が出来る方については、ASIS内下方を指で押さえながら呼吸をし、呼気時に下部腹横筋の収縮を感じてもらいます。
多くの方は腹横筋が収縮しているのを体感することで、「このように動かせばいいのだ」と理解してくれます。この時には骨盤底筋が収縮していることを伝えます。
正しく下部腹横筋がさわれているかのポイントについては丁寧に説明し、実際に自分で触ってもらうことをしながらセルフでも出来るように指導しています。
骨盤底筋の意識的な収縮を引き出すための現場実践例とひめトレエクササイズの有効性
現在は指導現場に応じてタオルや柔らかいボールを活用してレッスンを行うときもあれば、ひめトレを導入してレッスンをおこなうときもあります。
骨盤底筋の意識的な収縮を引き出すために、骨盤底筋の体感には時間をかけて丁寧におこないます。
骨盤底筋へ刺激を入れることを目的とし、座位ではツールを股に置き座ります。自分の体の中の骨盤底筋の場所を確認した上で実施します。このとき目を閉じることも有効です。
当たっているだけの状態から、「おしっこを我慢するように体を動かすとどのような変化がおこるのか」という感覚の確認をしてもらい、骨盤底筋の動きへと意識を向けます。最後にツールを股から抜き、ある時とない時の違いについて感覚の比較をすることで、さらに意識的な収縮感覚を引き出すようにしています。
骨盤底筋の収縮に慣れていない時は上半身にも力が入りやすくなってしまうので、まずは刺激などで収縮ポイントを意識させることが大事なのです。
その感覚を引き出すツールとしてひめトレを活用するのは効果的です。


▲辻野さんがひめトレを使った指導をされている様子です▲
タオルやミニボールも緊張をとったり直接刺激を入れることはできますが、集団指導での体感や正しい姿勢を作ると言う面からは全員に同じ効果を引き出すことが難しいと感じています。
ツールの硬さや形状が違うことで、体感を引き出す声がけへの共感に差が出てしまうのです。
ひめトレを骨盤底筋に当てると、反発力から独特の感覚が骨盤底筋へ伝わります。その感覚は、集団指導をしているほとんどの方が共感されます。
共通認識として感覚入力がスムーズにおこなえることで、収縮効果を実感させながらレッスンを進めることができます。
また、ひめトレはその形状から、上に座ることで正しい姿勢を取りやすくなり、ほかの部位の力が抜けた状態で骨盤底筋の動きに集中しやすくなります。
指導者側もクライアントの姿勢から骨盤底筋へのアプローチを予測できるのも魅力です。
ひめトレで骨盤底筋の意識を引き出し、その後エクササイズを行うことで、インナーユニットを活性化させ、その結果カラダの安定性や動作性が高まると感じています。
辻野さん、ありがとうございました。
辻野さんが指導現場で実践されているひめトレエクササイズを活用できるようになりたい方は、ひめトレベーシックセミナーの受講がオススメです。